ほぼ黒ワンピース生活

ほぼ毎日黒のワンピースを着ています。考えたことなどあれこれと。

お元気ですか、普通の上司のイイダさん

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お元気ですか、イイダさん。

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性差別をするセクハラ上司に、新人男性がズバリ! 展開に「スカッとした」「分かる!」 – grape [グレイプ]

女性が女性から叱られる is ある そしてこの手の話題、結局男性様が出てこないと解決しないの腹立つ

2020/01/27 11:34

いわゆる職場での「お茶くみ」のお話しから始まる、上司やらお局の、時代遅れなジェンダー観及び仕事観による理不尽が、今時の男性の意見と行動によって変わったお話し。

私も以前は「職場でのお茶くみ」「来客の接遇」「備品管理他の雑用」を言いつけられては いない のに、なぜかやることになっている社員だった。

岐阜の片隅にある製造業。地元の人が多くて結構、というかかなり、閉鎖的な会社だった。

 

そして、男性ばかりの職場に女子ひとり。

お茶棚の説明を受けたり「お茶出しといて」と声をかけられるのは私だけだったり。

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あのね、私、専門職でここに来たのね。

御社、特許担当がいないから、知財系の仕事してきた私に声かけてくれたわけだよね?

お茶出し来客接遇って私の業務分掌に書いてあったっけ?

特命事項とかいう便利なもののなかにお茶くみ入ってるの?それ他の社員にも「特命事項」ってあるけど、もしかして私の特命ってお茶くみ?

 

私ね、一分一秒を惜しんで、持てる限りの技術理解力と法律知識をもって、あなた達が作ってるものを権利にして、特許出願数を増やして、あなた達がやってる開発活動を知的財産の面からサポートするために来たんですけども、そうじゃないっけ。

 

そうもやもやしながらも、転職して半年はお茶出しをしていた。もやもやは、いい茶葉から出て来る黄緑色に溶かしていった。すっかり冷めたお茶を急いですすって、たくさんの営業マンや外部関係先が帰っていった。

自分を訪問してきた営業さんや弁理士先生にも自分でお茶を出すしかなかった。だって誰もやらない、誰にも頼めない、誰も動かないから。

そこで、当時の部署の部長、イイダさんと相談。

「自分を訪ねてこられた方にも私がお茶をお出しするのはちょっと、、最初のご挨拶もできませんし。普段のお茶出しも、仕事の手を止めて行ってますが、正直仕事になりません」

そうだよね、とイイダさん。

 

イイダさんは転職時の面接で会った最初の人だった。

理路整然とした喋り口ながらも鋭さのない人で、人当たりのいい人だな、といった第一印象だった。

面接の手応えもよく、初めて降り立った名古屋の街も明るく、ここで働けたら楽しかろう、そう前向きになったのを覚えている。

面接はうまいこと進んで人事・社長面談となって結局採用され、私はイイダさんが部長を務める開発部に、知財担当として入った。

 

話しを戻す。お茶出しは結局「部員みんなでやりましょう」となった。

けれども同じ時期に入ってきた新人社員も仕事にきりきり舞いで、お茶出しの余裕は誰にも彼にも、微塵もなかった。結局うちの部署はお茶出しの出来る人がいない、ということが分かった。

「みんなでやりましょう」が破綻した様を見て、イイダさんがそれより上に掛け合ったのか何なのかは知らないけど、お客様のご案内とお茶出しは管理部門の仕事になった。

ミーティングルームの管理も、来客予約も、茶器や茶葉の管理もすべて管理部門がやっていたので、管理部門の方も業務がスリム化していた。

 

おかげさまで仕事に集中できる。私は何かと押し付けられがちな雑用も、自分でハネたりできるようになった。困ることがあればイイダさんと一緒に考えればいい、という安心感があった。

このツイートに出てくる「部長殿」がイイダさん。

お菓子配りは個人でやるし、備品管理も気づいた人が補充する、そういう職場になっていった。

 

見方が違えば、なんだこの女、自分が楽したいばっかりに、こっちの仕事増やしやがって、と思う人もいるんだと思う。

けどもそれ、性別を逆にしても成り立つ文句なんだよね。

なんだこの男、自分が楽したいばっかりに、以下同文。

 

改めて考えると理不尽、

なぜ性別という生まれ持ったものに依拠して、何だこいつと言われなければならないか。

 

お茶出しをやめてしばらくしたある日、他部署の先輩社員がニコニコしながらデスクに近づいてきた。

「お客さん来るからお茶出してくれへん」

「お茶出しは管理部門の仕事になったので、私はしないことになったんです。仕事させてください。明細書の確認中で。お茶は管理部門にお願いしてくださいね。内線かけましょうか」

「えー。今までやってたんでしょ、お願いだよ」

「お茶出しは管理部門の仕事になったので」

 

舌打ちが聞こえた。そして「つかえねーなー」と言い残して先輩は去っていった。

つかえねーのは社内規則が随分前に変わったことを知らない貴方なのでは〜と言えばよかったな。言いすぎかな。いや、まずは人に向かって舌打ちすんなよ。

 

さっきの先輩が残していった嫌な感じも、もうどうでもいいや。イイダさんに相談するまでもない。仕事しよ。

風向きは私が思う方向になってるんだから。

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その後、古臭い上に寒暖の調整がしづらい女子の事務服も廃止になったし、社内での呼称が役職名でなく「さん付け」になったり、どんどんフラットで効率的な職場になっていった。

親会社がダイバーシティだとかサステナビリティだとか、力を入れていたこともあるけど、どことなく閉鎖的で排他的なこの会社が、昔からの慣習を抜けきれるのかな、と傍観者の立場だったのだけど、結構みるみるうちに変わっていった。

そしてその変化の中で、人の配置も変わる。

イイダさんは他の部署へ。

なんだかどんどん偉くなっていくイイダさんに追いつけるかな、といった感じに、私も職階が上がり、本社での研修に参加してプレゼンテーション賞を取ったり、本社に出向させてもらったり、一生懸命に働き、それなりに評価を頂いた。

 

 

イイダさん、ありがとうございました。

チャンスをいくつも下さった。会社に対する不満をいくつもさらっていってくださった。

そして、イイダさんは私が感じる不満を「会社を閉塞させていたもの」だと紐解いて、会社を良くするためのアイデアと認め、否定しないでいてくれた。更には会社ごと改善していった。

私はイイダさんを尊敬してやみません。退職して7年以上経ちますが、今も変わらず、ご活躍のことと思います。

 

さて、私がイイダさんのことを「普通の上司」とキャプションするのは、イイダさんが凡庸な人だとかいう意味の「普通」の表現ではなくて、

これからの上司、というか働くものとして、イイダさんの傾聴だとか、ジェンダー観、仕事観、課題解決力、提案力、周囲を巻き込む力、他いろいろ、それらの能力は持っていて当たり前のものであって、それが「普通」のものだと思うから。

 

バズったお土産ツイートでも「いい上司ですね!」というイイダさんへの賞賛があった。いい上司です。イイダさんはいい上司です。

 

でも、これが「普通の上司」で、「普通」の労働者なんだと思う。

 

そして私もいち労働者として、イイダさんが見せてくれたものを自分のものとして、働く現場をよりよく回すために力を出していかないといけないんだ、と思う。

私も、イイダさんに教わったものを、時代に合わせて出していく。

 

イイダさん、私は今、そういうことを考えています。

お元気ですか。またいつか。